Artist-in-Residence 賀茂なす | |
コンセプト | 1970年代に設立されたドイツのアートセンター「クンストラーハウス・ベタニエン」は、アーティスト・イン・レジデンスの先駆事例として有名であるが、創作を行う異能の人々が村々を渡って造形物を残すという事例はアジアには普遍的にみられる文化形態である。江戸時代の治安の安定のなかで、お伊勢参りや霊場巡り、また山岳修験を始めとする聖地巡礼が一大ブームを巻き起こした事例が、瀬戸内国際芸術祭や各地に点在するレジデンスの遺伝子となっている事は明白である。各地に残る祭礼や伝承のなかには、めぐり来る「マレビト」との交歓こそ人間の持つ本質的な欲求に根ざす行為であるという事が示されている。現在日本各地で雨後の筍のように誕生する地域芸術祭やAIRは、外来文化の移植という排外的な観点からではなく、文化人類学的営為として検証しなければならない。 |
その形態を究極にまで洗練したのが、松尾芭蕉その人である。 この場で彼の完璧なシステム設計に触れる時間は無いが、地方の経済力を持つキーパーソンの期待値を逆手に取って、たった17文字を組み合わせるだけで高度な芸術を生み出したエネルギー効率の高さには驚嘆の念を禁じえない。 利休も芭蕉もシンプルで堅牢なOSを書き残したという点では、ジョブスやビルゲイツを凌ぐエレガンスを発揮していると確信する。ゆえに、このレジデンスに立ち寄る若き「マレビト」たちに期待するのは、シンプルで堅牢なあらたなシステムを指し示す所作を期待したいのである。描かれ生み出される何かは、単なる技巧や装飾であってはならない。 | |
歴史的な古都はホテルと駐車場の街に傾き、住民は散逸していまや瀕死の状態である。 この危機に際してこの地に日本古来の文化伝統を持ち込む新たな磁場としての「AIR賀茂なす」を創造されたY-Labsの山本誠一郎氏、立志社の前田弘二氏のご支援に、この場をお借りして心より感謝を申し上げたい。 この場がアジアを起点に世界の野心的な創造者たちのハブとして成長できるよう全力を尽くしたい。 | |
Co-Organizer 椿昇
Artwork: Mina Katsuki Photo: Saki Maebata |